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三重県名張市のかつての中心地、旧名張町界隈とその周辺をめぐる雑多なアーカイブ。
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 三本柱の三本目は顕彰である
 
 「なぞがたりなばり委託事業募集要項」に記された名張市乱歩関連事業ビジョン、三本柱の三本目は「江戸川乱歩の作品や人物を広く市民に顕彰する事業」であるが、こんなのはもう、心得ちがいもはなはだしい、というしかあるまい。どうして名張市民が、いくら名張に生まれた作家だからといって、乱歩の作品や人物についてお役所から顕彰されなければならんのか。このおせっかいな啓蒙精神はいったいなんなんだ、そんなことをいうのであれば、名張市役所のみなさんは市民に率先して乱歩作品に親しんでいらっしゃるのであろうな、職員がそうなんだから市長と来た日には、乱歩全集全巻読破ッ、みたいな勢いで親しんでいらっしゃるのであろうな、ということにならざるをえないのだが、実際のところはどうよ。そんなこと全然ありゃせんであろうが。
 
 なんどでもいうけど、乱歩に親しむかどうかは市民の自由、個人の勝手というやつである。お役所がくちばしをつっこむことではまったくない。なにを読むか、なにに親しむか、なにを好きになるか。そんな問題でお役所が、いちいち偉そうなことをほざくべきではない。どんな市民だって、好きなものくらい自分でみつける。そんなことでお役所の世話にはならん。人間、好きなものというのは、たいてい子供時代に、せいぜいが十代のうちに、なんとなく発見してしまうものなのである。乱歩ファンなんてのも、まずたいがいはそうであろう。お役所のお導きで乱歩ファンにならせていただきましたあ〜、とかいってたら笑いものだぞ実際。
 
 したがって、名張市が市民のためにやるべきなのは、市民が乱歩作品にいつでも接することができるよう、図書館に乱歩の著作をそろえておくことである。とくに子供時代からせいぜいが十代といった世代にある市民が、いつでも乱歩作品にふれられるようにしておくことである。べつに小説にはかぎらない。それくらいのとしごろで、自分が好きなもの、自分が一生好きでいられるものをみつけておくというのは、たぶんとてもだいじなことである。そういう環境を用意してやるのは、周囲のおとなの役目である。ただし、乱歩を読め、と強制する必要はない。とくにお役所がそんなことしてみろ。てめーこら名張市は北朝鮮かよ、みたいなことをいいだす市民が出てくるかもしれんぞ。なによりも市民からのクレームを恐れながら日々を過ごしているお役所のみなさんが、そんな危ない橋を渡ってどうする。
 
 もっとも、もしもここに、自分は乱歩が大好きだ、という市民がいて、まだ乱歩作品を読んだことのない市民に乱歩の面白さを伝えたい、とおせっかいなことを考えたとしたら、それはもちろんありである。否定はしない。そんな市民がいるわけはない、とは思われるのだが、ファンが同好の士を求め、増やそうとしたがるのは事実なのだから、なかにはそんな市民もあるかもしれない。もしもいたとしたら、お役所も可能な範囲内で支援してやればいいのである。それとはべつに、とくに乱歩が好きではないし、むろん乱歩のこともよく知らない、しかし、乱歩というビッグネームを自己顕示や自己満足の素材としてぜひ利用したい、という市民もあるかもしれない。その市民が、まだ乱歩作品を読んだことのない市民に乱歩の面白さを伝えたい、などとおためごかしで名張市民をだしにするというのであれば、そんなのはいうまでもなくペケである。
 
 それにしても、名張市役所のみなさんにおかれては、おれのいってることをなんとかご理解いただけているのであろうか。いささか不安な気もするけれど、よくわかんない、とおっしゃる向きがあるようなら、いずれあらためて稿を起こすことにして、本日はここまででとどめておく。まあ名張市役所のみなさんや、乱歩のことを好きになってしまう人間というのは、多くは子供のころか若いうち、なにかしらのきっかけで乱歩を発見してしまい、作品を読み、乱歩をよく知るところとなってしまうものなのだから、みなさんが心配すべきことはなにもない。お役所が市民に乱歩を顕彰する、なんておこがましい差し出口は無用である。みなさんにはもっとほかに、いろいろと考えなければならんことがあるんじゃねーの?
 
 というわけで、名張市がかかげる乱歩関連事業ビジョン三本柱の三本目、「江戸川乱歩の作品や人物を広く市民に顕彰する事業」にかんしては、まことに僭越ではあるけれど、却下、というはんこを押しておこう。ぺたっ。
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