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三重県名張市のかつての中心地、旧名張町界隈とその周辺をめぐる雑多なアーカイブ。
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 遅いっちゃ遅いけど先送りにはできない
 
 そんなこんなで二年が過ぎた。ある日、名張市立図書館から電話があった。読書会の打ち合わせをしたいという。はあ? と思った。だから、乱歩の読書会は二年だけという約束である、三年目はないから、打ち合わせも不要である、と伝えた。それで終わったと思っていたら、また電話があって、なんとか三年目もやってくれ、と依頼された。むろん、断った。しかし、図書館もしつこい。とうとう拙宅まで押しかけてきてくれて、そんなこといわずにどうかひとつ、ということになった。なんかもう、泣きつかんばかりなわけね。
 
 どうしてそこまで必死なわけ? とおれは図書館に尋ねた。おれは最初から、読書会は二年だけ、といっておったではないか。それが伝わってなかったとしたら、図書館側の連絡ミスである。おれには関係がない。それにだいたい、三年目がなくなったといっても、読書会の受講生を募集しなければいいだけの話ではないか。だれに迷惑がかかるわけでもない。なんでそこまで必死なの?
 
 すると、新年度の当初予算に読書会の予算が組み込まれているから、という返事が返ってきた。知ったことかよ、と思った。予算のことなど考えてもいなかったのだが、いわれてみればたしかにそうである。講師料とテキスト代、ごくごくわずかな金額だが、予算はたしかに組まれているはずである。しかし、それならそれで、次年度予算を要求する以前の段階で、おれの意向を確認してもよかったよな。そうしていたら、その時点で、三年目はなしである、ということがはっきりしたはずである。あとでごたごたすることはなかったはずである。それともなにか、おまえら公務員は、市民は行政の手駒である、とでも思っているのか。おまえらの都合で好きなように市民を動かせるとでも思っているのか。民は唯々諾々として官に従うべき存在だとでも思っていやがるのか。ばーか。いつまでも官尊民卑で凝りかたまってんじゃねーぞ腐れ公務員。とっとと帰りやがれ。で、図書館は帰っていった。
 
 しかし、図書館はまた来てくれた。ほんとにもう、泣きつかんばかりなわけなのね。なんとか三年目もよろしくお願いしたい。その一点張りである。ほとほといやになった。てめーらの勝手な都合を人に押しつけてんじゃねーよ。おれは最初から、図書館が乱歩の読書会を開いてうわべだけかっこつけることを、けっして好ましいものだとは考えていなかった。だいたいおまえら、どうしてそうなの? 読書会などといううわっつらのことだけでお茶を濁そうとするの? 乱歩の資料を専門的に収集しております、というのであれば、読書会なんかよりほかに、もっとやるべきことがあるではないか。だというのに、どうしてそれをしないの? と尋ねた。
 
 なにをしていいのか、まるでわからない、という答えが返ってきた。ふーん、そりゃ大変だな、と思った。しかしまあ、それならそれで、いたしかたあるまい。なにもわからんのなら、なにもしなければいい。それだけの話である。だから、読書会なんて、むしろ絶対やっちゃいけないことだったわけな。なにもわからん人間がなにかをやろうとすると、前例を踏襲するか、よその事例の真似をするか、人のふんどしで相撲をとるか、どれもお役所の得意技ではあるのだが、そんなことしたっていずれぼろが出るのは確実なんだから、なにもわからないと明言するのであれば、もう一歩前進して、なにもわからないからなにもしない、と宣言してしまえばいいのである。ばかならばかでいいから、潔いばかであれ。ばかが背伸びしたりかっこつけたりしたって、そんなものは見苦しいだけである。なにもわかりません、だからなにもしません、かんにんしてください、と一本、すーっと筋の通った潔いばかであれ。いずれにしても、おれには関係のない話である。市立図書館がいかに無能で怠慢であろうと、そんなことおれには関係がない。薄情なようだけど、知らんがな、というしかないではないか。
 
 とっとと帰ってもらおうとしたところ、図書館から意外な申し出があった。図書館が乱歩にかんしてなにをやればいいのか、考えてくれないか、というのである。まったくまあ、あきれ返った話である。そもそもそんなもの、ことあらためて考えねばならぬことではない。市立図書館が乱歩関連資料を収集しようと決めたのであれば、その時点で考えられているべきことである。そんなことすらできていないのであれば、ほんとにもう、なにもするな、ということになる。考えてくれもくそもないではないか。資料を収集していますというのであれば、その活用を進めればいいのである。そんなこともわからんのか。だったらもうやめてしまえ。乱歩関連資料の収集なんてやめちまえよばーか、という話になる。げんに、いまもそうである。
 
中 相作 さま
    
このたびは「市長への手紙」をお寄せいただき、ありがとうございました。
 
名張市立図書館が所蔵する江戸川乱歩関連資料を活用するための具体的な方針につきましては、現在のところございませんが、今後、図書館活動の一環として、江戸川乱歩に関連する図書や雑誌などの資料を、収集・保存に努めてまいりたいと考えています。
 
今後とも、貴重なご意見・ご提案をお寄せいただきますようお願いします。
 
平成20年10月 9日
 
 名張市長 亀井利克
 
 な。活用する気もないのなら、収集なんてやめちまえよばーか、という話になるしかないではないか。それにしても、どのセクションの職員がこの回答を書いてくれたのかは知らんけど、ほんと、ばーか、といってやるしかないよなまったく。しかも、小ずるい。「現在のところ」とかいってるあたり、じつに小ずるい。先送りして、うやむやにしようとしている。公務員の常套手段ではあるが、いま考えなければならないことを先送りして、そのまま知らん顔を決め込みさえすれば、あとは異動か退職を待つばかり、ということになる。無責任システム、本日も異状なし。いま決めなければならないことを決めなかったことの責任なんて、だれからも問われることがない。ほんと、お役所ってのはよくできてるよな。
 
 それはそれとして、乱歩にかんしてなにをやればいいのか、考えてくれないか、と依頼されて、そんなのは考えるまでもない、収集資料の活用を進めればいいのである、と答えたところ、それならそれをやってくれないか、とさらに頼まれた。で、受けることにした。市立図書館が収集資料を活用できないっつーのは、市民のひとりとして考えた場合、なんともなさけない話であるし、恥ずかしいような話でもあるし、それ以上にじつにもったいない話なのである。だから話を受けることにして、それならなにか立場を与えてくれ、と頼んだ。そしたら後日、嘱託という立場でやってくれ、と連絡があったので、その年の10月から市立図書館嘱託ということになった。10月といえば、そろそろ次年度予算の編成作業が始まろうという時期である。だからとりあえず、目録を刊行するための予算を請求してもらうことにした。収集資料の活用ってのは、目録を作成することから始まるのである。で、目録を作成するということは、資料収集の方針を明確化する、ということでもある。つまり、おれが嘱託になったとき、市立図書館には収集資料の活用にかんしてはもちろん、資料収集そのものにかんする方針すら存在していなかったのである。
 
 そのあたりのことを、以前書いたところから引用しておく。
 
 さて、嘱託になった私は、名張市や名張市教育委員会が乱歩についてどう考えているのかを知りたいと思った。私は私なりに、名張市立図書館が乱歩に関して何をすればいいのか、そのプランはもっていた。しかし、それが名張市や名張市教育委員会の考えと整合性をもったものかどうかは判らない。早い話が、名張市は昭和四十年代のなかばに乱歩記念館の建設構想を打ち出しているのだが、その構想が生きているのか死んでしまったのか、生きているとすればどういう形で残っているのか、そしてその構想と図書館との関係はどうあるべきなのか、そのあたりを確認しておかなければ動きようがないのである。そこで私は、教育委員会のしかるべき地位にある方に文書で質問を提出した。図書館が乱歩に関して何をすればいいとお考えか、教育委員会としての見解なり方向づけを示してほしい、といった内容の文書である。
 
 教育委員会のしかるべき地位にある方、といちいち書いていてはまどろっこしい。かりにX氏としておくが、X氏からは、しかし何の返事もなかった。やっぱりな、と私は思った。教育委員会には何の見解もないのだ。それは充分に予想されていたことなので、私は驚きもしなかった。そして、とりあえず自分なりのプランを実行するべく、『乱歩文献データブック』の予算を要求するよう手配した。平成七年十一月のことである。つまりお役所では、毎年十一月に次年度予算獲得のための動きが始まる。来年はこういう事業を進めますからこれだけの予算をいただきたいという折衝が始まるのであって、市立図書館は教育委員会に対し、『乱歩文献データブック』刊行という事業を行いたいと申し出たのである。図書館長がことあるごとに事業の必要性を説いてくれたこともあって、ゴーサインが出た。一昨年三月の市議会で、予算が正式に認められたのである。
 
 これを受けて四月、私は乱歩令息、平井隆太郎先生にお会いするため上京することになった。書状のやりとりで『乱歩文献データブック』のご監修はお引き受けいただいていたのだが、一度お邪魔してご挨拶申しあげる必要があった。上京の前、私は図書館長に、市長にお会いしたいのだが、と申し出た。さきほども記したごとく、名張市が乱歩のことをどう考えているのか、それが知りたかったのである。『乱歩文献データブック』の刊行は、名張市が過去に手がけてきた乱歩関連事業や名張市の将来構想のなかに位置づけられた乱歩関連事業と無縁ではあり得ない。私は平井先生に、名張市は乱歩先生に関してこれだけのことを考えております、このたび図書館が刊行する本もその一環であります、というふうにご説明申しあげ、ご協力をお願いしたかったのである。それが筋というものであろう。やがて図書館長を通じて、市長ではなくX氏から返事があった。
 
 「おまえが市長に会うのは無理である。教育委員会のしかるべき地位にある私をさしおいて市長に会うことなど市役所のシステム上とうてい認められぬ。不可能である。会いたいというなら私が会ってやろう」
 
 というX氏の言い分を伝えられて、私は耳を疑った。そのまま教育委員会に飛んでゆき、X氏の胸倉を掴んで、
 
 「おのれごときぼんくらではラチがあかんさかい市長に会わせ言うとるんじゃぼけ。聞き苦しい声でしょうもないことキャンキャン吠えとったらしまいに水かけるぞこの出来損ないが」
 
 などと怒鳴りつけてやろうかとも考えたのだが、それはさすがに思いとどまり、相手がそんな屁理屈を振り回すのであれば致し方ない、X氏にお会いしようと観念して、指定された日時に名張市役所を訪れた。大幅に遅刻したX氏は、私の顔を見て開口一番、
 
 「乱歩の本をつくるそうですが、誰にも迷惑かけずにできるんですかァ」
 
 とおっしゃった。私は唖然とし、ここに筋金入りの公務員がいる、と思った。何事においても責任回避と自己保身を真っ先に考えることが習い性となった公務員の鑑のような人物が、私の目の前に立っているのだ、と。私は返答する気力も失せ、適当に話をして退散した。しかし、このおっさんいずれ一発かましたらなあかんな、と胸に誓うことは忘れなかった。機会が訪れた。翌年、つまり去年の一月のことである。どうしても問い質したいことが出てきたので、私は図書館長に、X氏にお会いしたいのだが、と申し出た。
 
 「どういうご用件ですか」
 
 「一発かましたりますねん」
 
 とはいわなかったが、私はこれこれこういうことを確認したいのであると館長に伝えた。やがて、館長を通じてX氏の返事がもたらされた。市議会を控えて忙しいから時間が取れない、とのことである。ぼけが、と私は思った。ごく短時間で済む用事ではないか。
 
 といったことをいくら書き連ねても、たいして意味はないのかもしれない。私は別にX氏を非難したいのではなく、いったい乱歩のことをどうお考えなのかと名張市や名張市教育委員会に尋ねてみても、はっきりした返答は得られなかったという事実をお伝えしたいだけなのである。だが読者には、私が私憤をぶちまけているとしか見えないかもしれない。だからX氏の話はここまでとして、話を先に進めよう。要するに、たとえば市立図書館が乱歩の著作を集めるにあたって、刊本のみを対象とするのか初出誌まで視野に入れるべきなのかといった点に関しても、その判断基準となる構想や方向づけはまったくもたらされないのである。こちらが質問しても、返答そのものがないのである。しかし、それはあらかじめ想像がついていたことでもあった。お役所がいかに無責任で無能力で怠慢であろうとも、私は私の仕事をすればよいのだ、と私は単純に思っていた。
 
 「教育委員会のしかるべき地位にある方」というのは、ちょっと前にも書いたけど、教育やくざ三教組のご出身ではなかった教育長のことである。で、市長というのは、前市長のことである。当時、市長にお会いしたいと思えばいつでも、電話で直接お願いすればたちまち OK だったはずなのであるが、なにしろ図書館の嘱託としてお役所のヒエラルキーに身を置いたわけなんだから、それなりの動きをしなければならない。だから図書館長を通じて市長との面談を求めたところ、上に記したような結果になったのであった。
 
 そんなことはともかく、図書館が教育委員会に目録刊行の重要性を強く訴えてプッシュしてくれたこともあって、予算を獲得することができ、無事に一冊目の目録が完成した。二冊目、三冊目もできあがった。だから、市立図書館が乱歩関連資料を収集するにあたっての方針も、その活用の方法も、じつはすっかり決まっていたのである。三冊の目録が、それを明確に示していたのである。それが、そうではなくなった。なぜそうではなくなったのか、それをいまこうして振り返っているわけなのであるが、とにかくそうではなくなった結果、こういうことになった。
 
中 相作 さま
    
このたびは「市長への手紙」をお寄せいただき、ありがとうございました。
 
名張市立図書館が所蔵する江戸川乱歩関連資料を活用するための具体的な方針につきましては、現在のところございませんが、今後、図書館活動の一環として、江戸川乱歩に関連する図書や雑誌などの資料を、収集・保存に努めてまいりたいと考えています。
 
今後とも、貴重なご意見・ご提案をお寄せいただきますようお願いします。
 
平成20年10月 9日
 
 名張市長 亀井利克
 
 なあ、名張市役所のみなさんや。いくらなんでもこれではまずかろうが。これではまずいということくらい、みなさんにもわかっていただけるものとおれは思う。だから、昨年の秋以来、じわじわと話を進めて、まあなんとか、名張市立図書館が乱歩にかんしてなにをどうすればいいのか、みたいなことをお役所のみなさんに考えていただいているところである。本来であれば四十年あまり前、市立図書館が開館された時点で明確に決められていなければならなかったことを、いまお考えいただいておるのである。遅いっちゃ遅いけど、いつまでも先送りにはしとけないからな。とはいうものの、そろそろ、ここらで煙が出るコロナ、みたいなことになってきてんじゃねーの? という気もして一抹の不安を抱かぬでもないのだが、とにかくめでたいことである。ありがたいことである。名張市役所のみなさんに心からなる謝意を表しておくとともに、名張市民のみなさんにもついでにお知らせしておくわけだけど、名張市役所のみなさんに真剣にものごとを考えていただけるというのは、これはほんとにありがたいことなんだぞ。おれなんてもうありがたさのあまり、日の出とともに市役所のほうに手を合わせてから一日を始めておるほどなのである。
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