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三重県名張市のかつての中心地、旧名張町界隈とその周辺をめぐる雑多なアーカイブ。
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平成11・1999年10月21日、ウェブサイト名張人外境を開設した。

きのうにつづいて、南陀楼綾繁こと河上進さんの「そして、本だけが残る──三人の「出版者」との対話」から引用。

   
一九九九年、中さんは「名張人外境」(http://www.e-net.or.jp/user/stako/)というサイトをオープンした。図書館の事業として提案したが予算がつかず、「だったら自分でやるわ」とはじめたものだ。『文献』(『乱歩文献データブック』のこと──引用者註)『年譜』(『江戸川乱歩執筆年譜』のこと──引用者註)のデータを掲載し、進行中の『著書』(『江戸川乱歩著書目録』のこと──引用者註)については調査済みのデータを公開した。このサイトを見た人から、新たな情報が多く寄せられた。

時間の流れはこうである。
  1. 乱歩文献データブック 平成09・1997年3月31日
  2. 江戸川乱歩執筆年譜  平成10・1998年3月31日
  3. 江戸川乱歩著書目録  平成15・2003年3月31日
このうち二冊をつくっているあいだに、インターネットが急速に普及した。収集資料にもとづいてサービスを提供するために書誌をつくったのだから、そのサービスの手段としてインターネットを利用しない手はない。

だから二冊目が出たあと、平成11・1999年度事業として、書誌二冊の内容をネット上で公開するための予算を要求したのだが、蹴られてしまった。「だったら自分でやるわ」と考えたのが、たぶんこの年の春のことで、半年あまりの準備期間のあと、江戸川乱歩の誕生日にあたる10月21日、名張人外境をオープンした。

公共図書館がインターネットを利用してサービスを提供するのは、いまやあたりまえの話である。図書館のサイトにアクセスすれば、蔵書を容易に検索できる。

しかし、名張市立図書館のサイトでは、一般の蔵書は検索できても、江戸川乱歩にかんするデータにふれることはできない。尋常なことではない。異常なことである。しかし関係者は、だれひとりとして、そのことに疑問を抱かない。

平成15・2003年、三冊目の『江戸川乱歩著書目録』を刊行した直後、面談の機会があったので、当時の教育長に直接、リファレンスブックが三冊そろったのだから、名張市立図書館のサイトに三冊のデータを掲載し、高度な検索ができるようにするべきであると提案した。結局、実現しなかった。

これは普通では考えられないことだから、少し前まで、どうして名張市立図書館のサイトに江戸川乱歩関連のデータが存在しないのかと、それこそ疑問を抱いた人からたまにメールが届くことがあった。

しかし最近は、それもない。名張市って、どうやらどうしようもない自治体みたいだな、といった認識が、ウェブサイト名張人外境を通じて、そこそこ定着してきたのではないか。

予算化を二度要求し、二度とも却下された時点で、名張市立図書館のサイトに江戸川乱歩リファレンスブックのデータを掲載することはあきらめた。

そして迎えた平成16・2004年。三重県が官民合同で展開した芭蕉生誕三百六十年記念事業の年である。三億円の公金に官民双方のうすらばかが群がり寄った年である。

ばかかこらうすらばかども、と思いきり吠え立ててみたのだが、ばかでありうすらばかである人間にそんなことを尋ねてみても、意味はなかった。

協働だ、新しい時代の公だ、と意味不明のお題目をかかげて騒ぎまくるばかの元気なこと元気なこと。ほとほと感服しているあいだに、三億円はあっというまにどぶに捨てられてしまった。ただまあ、三億円のうちの五百五十万円で、『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』を刊行することができたのだから、それでよしとしておく。

この年、平成16・2004年は、桝田医院第二病棟が所有者から名張市に寄贈された年でもあった。すでに記したことだから、この話題は省略するとして、この年は、名張まちなか再生プランの策定がはじまった年でもあった。

翌年の1月に素案が発表され、それではじめて名張まちなか再生プランのことを知った。読んでみたが、ひどいプランであった。仔細は省くが、とにかくひどい内容であったことは、プランがいまや雲散霧消しているらしいことからも理解できるだろう。

なかでもひどかったのは、新町の細川邸を歴史資料館にするという構想である。これもどうひどいのか、あちらこちらにさんざん書いてきたことだから、ここでは割愛する。

細川邸を名張市立図書館のミステリ分室にする、というアイディアを、パブリックコメントとして提出した。ねらいのひとつは、名張市立図書館に展示されている乱歩の遺品を、乱歩が生まれた新町で公開することであった。市立図書館は、名張まちなかの導線から、いささか離れすぎている。

もうひとつのねらいは、慶應義塾大学推理小説同好会OB会のメンバーから名張市立図書館に寄贈され、図書館の地下書庫に死蔵されているミステリー関連図書を、この分室の開架に収めて閲覧に供することである。この点にかんしては、細部にわたる構想がいろいろとあるのだが、ここでは省く。

ミステリー関連図書のデータは当然、インターネットで公開することになる。となれば、江戸川乱歩リファレンスブックの内容も、高度な検索機能をそなえて公開できることになる。これもねらいのひとつ、というか、最大のねらいであった。

しかし、この提案も実らなかった。ボスは駅弁大学の御用学者、委員は区長会だのまちづくり推進協議会だのからの寄せ集め、なんともおそまつな委員会によってまとめられたひどい素案が、そのまま名張まちなか再生プランとして正式に決定された。

大丈夫か名張市。

いやいや、全然大丈夫なんかではないのであるこんなインチキ自治体。うわっつらのことしか考えられず、本来なすべきことには眼をむけようともしない。いやもうほんと、でたらめなのである。

以前にも記したが、江戸川乱歩という作家と名張という土地とは、ほとんどといっていいほど無縁である。だが、名張市立図書館が開館準備の段階から関連資料を収集し、それにもとづいて江戸川乱歩リファレンスブックを刊行したことで、乱歩と名張のあいだには、新しい関係性というものが築かれている。

作品を読もうとせず、どんな作家であるのかを知ろうともせず、せいぜいが自治体の自己宣伝の素材だと考えることしかできず、ときどき発作のように記念館だ文学館だと騒ぎ立てては、何もできずにあっさり投げ出してしまう。うすらばかというのはまったく困ったものであるが、何をいってもしかたがない。名張市というのはその程度の自治体なのである。

この先も乱歩にかんして無策無能でありつづけるのなら、名張市はいさぎよく乱歩から手を引いてしまえばいいのである。だが、それはおおきにもったいないことである。江戸川乱歩という偉大な作家と縁を切ってしまうのは、名張市という自治体にとって、けっして得策ではない。

没後四十年以上を経過したいま、平成19・2007年のいま、乱歩はいったいどのような作家として時代に受容されているのか。9月に刊行されたアンソロジー『江戸川乱歩と13の宝石 第二集』(光文社文庫)に収められた新保博久さんの「解題 雑誌フリークとしての江戸川乱歩」から引いておく。

   
ことし平成十九年はまた本アンソロジー二巻のほか、平野嘉彦著『ホフマンと乱歩 人形と光学器械のエロス』(みすず書房)、小松史生子著『乱歩と名古屋』(名古屋・風媒社)、三島由紀夫の劇化『黒蜥蜴』の初文庫化(学研M文庫)、別冊宝島編『僕たちの好きな明智小五郎』(宝島社)、本文庫版全集の註釈者である平山雄一著『江戸川乱歩小説キーワード辞典』(東京書籍)、あるいは宝塚花組公演「明智小五郎の事件簿─黒蜥蜴」(原作とも三島脚本とも異なる明智と黒蜥蜴との関係の設定に、観客席で人間椅子から転げ落ちそうになった)、「エロチック乱歩」(アートポート)と総称される佐藤圭作監督「人間椅子」と三原光尋監督「屋根裏の散歩者」の映画リメイク(ストーリーはともども原作とはほとんど別物だが)など、乱歩関連の出版・上演・上映が相次ぎ、応接に暇がないほどである。これらは原著者没後四十二年を閲してなお新たな魅力を引き出せる乱歩作品の普遍性と奥深さとを証するものだが、その謦咳に触れた作家からも本来以上の力量を発揮させる乱歩自身の人間としての吸引力まで窺わせるのは本書と前集だといったら、自画自賛にすぎるだろうか。

モンスターのような作家である。乱歩という作家を自己宣伝の素材としかみない人のために記すならば、素材としては最高である。これ以上の素材は、どこをさがしたって存在しない。

ほとんど無縁であるとはいえ、乱歩が名張のまちに生まれたことはたしかなのだし、名張市立図書館が収集資料にもとづいて乱歩という作家と新たな関係を結び、名張市民のあずかり知らぬところではあろうけれども、市立図書館のリファレンスブックがある程度、名張市の自己宣伝に役立っていることもまた事実なのである。

だから、縁を切るのはもったいない。あまりにも、もったいない。さりとて名張市は、あいもかわらず無策無能である。『乱歩文献データブック』と『江戸川乱歩執筆年譜』を両手にもち、どちらの本にも字が書いてあるから中身はおなじではないのか、と尋ねてくるようなばかが教育次長を務めていたような自治体なのである。もはや、何を期待することもできない。

だから悩んだ。ひと夏、おおいに悩んだ。これ以上、名張市に何を提案しても無駄である。いくら叱り飛ばしても意味はない。それだけは、はっきりしている。だったら、どうすればいいのか。

こちらでNPOをつくって、名張市がやるべきことをやってやるしかないのではないか。

ひとまずこういった結論にたどりついた。とはいえ、まだ、迷っている。
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