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三重県名張市のかつての中心地、旧名張町界隈とその周辺をめぐる雑多なアーカイブ。
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さきおとといのつづき。

朝日新聞:街道筋 再生拠点へ 名張市・やなせ宿

さあどうする、といってみたところで、どうなるものでもあるまい。やなせ宿から乱歩がきれいに消えてしまった。昨年6月の定例会における「ミステリー文庫であったり、あるいはまた乱歩ゆかりの品も一緒に、その近くといいましょうか、街道沿いといいましょうか、そういう部分に展示する場所が必要であるということは、これもさきに申し上げたとおりでございます」との市長発言も、あっさり反故にされてしまったということである。

もっとも、やなせ宿の関係者はおそらく、乱歩の線が完全に消えたわけではない、と弁明するはずである。ただいま検討中である、と主張するはずである。検討するのがすこぶるお好きなみなさんである。平成17・2005年6月に名張まちなか再生委員会が組織されてからこのかた、細川邸をどうすればいいのか、その検討を三年ちかくもえんえんと重ねたあげく、まだ決められなくて検討を継続し、昨年度に工事が終了したのだからいくらでも4月にオープンできるところを6月に延期までして、さあ細川邸改めやなせ宿をどうしましょうかと検討をつづけているのだから世話はない。あれもこれもすべて検討中である、と関係各位は主張するのであろうが、そんないいわけはもう通用しない。いくらなんでも検討期間が長すぎる。要するに検討能力がないのである。考えることができないのである。

考えることができないのだから、乱歩は消えてしまったと判断するしかないであろう。せっかくの素材がはかなく消えてしまったのである。それにしても、市長発言の重みのなさはいったいどうしたことであろう。余の場ではない。定例会での発言である。「その近く」というのは桝田医院第二病棟の近くということであり、「街道沿い」というのであれば細川邸すなわちやなせ宿でしかありえない。そこに「ミステリー文庫」や「乱歩ゆかりの品」を、という首長の公式な発言が、いつのまにかこれといった説明もないまま水に流されてしまっていいのかどうか。

遠い将来のことではない。まさに整備が進行中だったやなせ宿にかんする発言である。構想や方針のことでもない。眼前の問題であり、喫緊の課題である。名張市立図書館にあるミステリーの寄贈図書や乱歩の関連資料をやなせ宿に展示する必要があると考えている、という現実に即した具体的な発言である。それがどうして立ち消えになってしまい、いまや一顧だにされなくなっているのか。市民としては不可解きわまりない話である。

不可解といえば、何から何まで不可解である。そもそも「いただいてあるミステリー本」や「乱歩のゆかりのもの」を細川邸で活用するというプランは、名張まちなか再生委員会が発足する以前、平成17・2005年の3月に提出したパブリックコメントに記したことである。公表された名張まちなか再生プランがじつにずさん、ひたすらおそまつ、机上の空論と呼ぶしかないしろものだったから、地域の個性と現状に立脚しながら身のたけ身のほどにも応じた構想として提示したものである。

名張人外境:乱歩文献打明け話 番外 僕のパブリックコメント

パブリックコメントは無視されてしまったのだが、そこに記した提案が二年以上も経過してから名張市議会で語られたのも不可解なら、それがいつのまにか消えてしまったのも不可解である。市長が議場で言明した見解でさえ理由も不明なままうやむやになってしまうというのであれば、この名張市においてはいったい誰が、どこで、どんな基準にもとづいてものごとを決めているのか。税金の具体的なつかいみちを決めているのか。市民には何もみえない。わからない。知らされない。もっとも、この細川邸整備事業にかんしていえば、誰にも何も決められないという信じがたいほどの決定力不足が問題になっているわけなのだが、考えたり決めたりする能力のない団体がなぜ、考えたり決めたりする役割を与えられているのか。それもまたじつに不可解なことである。

ともあれ、朝日新聞の記事にあるとおり、やなせ宿は初年度だけ名張まちなか再生委員会のまちなか運営協議会によって運営され、「来年度からは指定管理者制度を導入し、管理者を公募する」ことになるという。当初の構想では、名張まちなか再生委員会が発足させたNPOによって、やなせ宿は独占的に運営されることになっていた。いってみれば、特定のNPOにやなせ宿を私物化させる筋書きができていたのである。ところが、はっきりした理由は知るべくもないが、そのNPOは実質的に空中分解してしまった。理由のひとつとして推測されるのは、公設民営という方針が重い足かせになっていたのではないかということである。だとすれば、NPOの代役としてまちなか運営協議会を立ててみたところで、事態が好転することなどまったく望めない。

細川邸の整備事業では、そもそもの最初から、公設民営という方針が金科玉条のごとく掲げられていた。ただし、民営の内容はいっさい不明であった。端的にいえば、細川邸を民営するにあたって税金による補助がともなうのか、そうではないのか、それが明らかにされていなかった。根拠のない推測をあえて記すならば、名張市のもくろみでは、市からの補助はいっさいなし、ということではなかったのか。名張まちなか再生委員会の検討が停滞し、いっこうに前に進まなかったのも、細川邸が公費で整備されたあと、その維持管理や運営の費用はすべてNPOが捻出しなければならないということが重い足かせだったからではないのか。

だが、完全な民営が不可能であることなど、最初からわかりきったことである。一般の商店経営さえ成立しない名張まちなかで、施設だけ建ててやるからあとは自分たちでなんとかしろ、などという虫のいい話が通用するはずはあるまい。結局どんなことになったのか。無駄に立派な公衆便所つきの名張地区第二公民館と呼ぶしかない施設を整備して、これに一億円。まちなか運営協議会による初年度の運営費として二百五十万円。二年度目以降の予算はいまだ白紙のはずであるが、指定管理者制度というのだから当然、税金が費消されることになるのであろう。誰からも望まれることなく生まれてくる赤子のような施設のために、毎年毎年予算をつけつづける羽目になった。そういうことなのではないか。

昨年6月の定例会では、「乱歩はまちなか再生の目玉と称されております。私も、乱歩は全国的にも知れ渡るメジャーの地域資源であると考えます」との議員発言もあった。その乱歩が、いつのまにかどこかに消えてしまい、細川邸改めやなせ宿はなんのための施設なのかもあいまいなまま、消えることなく存在しつづける。消えなければならぬのは、けっして乱歩ではないはずなのであるが。
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