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三重県名張市のかつての中心地、旧名張町界隈とその周辺をめぐる雑多なアーカイブ。
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江戸川乱歩年譜集成

昭和二十一年(一九四六)上半期

年齢:五十一歳→五十二歳、数え年五十三歳
住居:東京市豊島区池袋三丁目一六二六
□探偵小説四十年:細目□
探偵小説復活の昂奮【昭和二十一年度】
昭和二十一年度の主な出来事
探偵小説界と私の身辺の出来事
二十年末より二十一年秋までの日記
探偵雑誌『黄金虫」計画
「幻の女」を読む
「宝石」創刊と横溝の「本陣」
雄鶏社の推理叢書
クレイグ・ライス
双葉、植草両君と知る
「心理試験」映画化
角田喜久雄の長篇
第一回土曜会
水谷準作家専業となる
ウソ発見器
捜査会議に列す
小栗虫太郎
五つの探偵雑誌
吉良運平の飜訳計画
「宝石」第一回当選作家

一月一日(火)

□日記□《餅なく、雑煮なく、しめ飾りなく、門松なく、国旗もない敗戦第一年の正月なり。終日来訪者なし》[探偵小説四十年]

一月二日(水)

□日記□午後、前田豊秀が来訪。前田からは前年末、乱歩を主幹として探偵雑誌を発刊したいと依頼があった。その条件を覚え書きとして手渡す。[探偵小説四十年]

一月九日(水)

□日記□小栗虫太郎が来訪し、一泊。[探偵小説四十年]

《二人は焼野原の中に辛うじて残った私の家の一室で夜をふかして探偵小説の事を語った》[小栗虫太郎君/昭和21年4月]

一月十日(木)

□日記□小栗虫太郎、再泊。[探偵小説四十年]

小栗虫太郎は一月四日に上京し、海野十三宅に宿泊した。海野は一月十日の日記に「乱歩さんは相変らず老人ぶって引込んでいるのは遺憾である。しかし色気は皆無というには非ず、一年一作で十分たべられるというものをやりたいとのべていると、小栗虫太郎が帰って来ての話だ。これは大いによろしい」と記した。[長山靖生:解説 『海野十三敗戦日記』中公文庫/平成17年]

一月二十日(日)

□書籍□『妖犬』第二刷の奥付発行日。平凡社から刊行され、コナン・ドイルの訳を収録、初版発行は昭和五年七月とする。戦後初の著書。

一月二十三日(水)

□日記□前田出版社から探偵雑誌を発行する計画が不調に終わる。《クイーン雑誌にならいて「江戸川乱歩・ミステリー・ブック」と題し、内外の名作再録雑誌にするつもりなりしが》[探偵小説四十年]

一月二十六日(土)

□日記□夜、名古屋へ出発。井上良夫未亡人ゆき子を訪ね、英文探偵小説の蔵書約百冊を譲り受ける。[探偵小説四十年]

一月二十八日(月)

□日記□名古屋から一番列車で帰京。[探偵小説四十年]

一月

《【一月】「中央公論」「改造」復刊、「世界」創刊》

二月十日(日)

小栗虫太郎が四十四歳で死去。

□日記□午前、小栗虫太郎の死去を知らせる電報が届く。弔電と香奠を送る。[探偵小説四十年]

《【二月】十七日、小栗虫太郎君、疎開先長野県にて病歿 *「十七日」は乱歩の誤記》

二月十六日(土)

□日記□城昌幸、岩谷書店の岩谷満と武田武彦を同伴し、探偵雑誌「宝石」創刊の挨拶に来訪。長篇執筆を依頼されるが、断る。[探偵小説四十年]

二月十九日(火)

□日記□終日、アイリッシュ「ファントム・レディ」を読む。[探偵小説四十年]

二月二十日(水)

□日記□朝、春山行夫が来訪。春山が編集長を務める文芸科学ニュース誌「雄鶏通信」で「ファントム・レディ」を優先して紹介することを約す。終日、「ファントム・レディ」を読む。[探偵小説四十年]

「ファントム・レディ」の表紙裏に「昭和二十一年二月二十日読了、新らしき探偵小説現われたり、世界十傑に値す。直ちに訳すべし。不可解性、サスペンス、スリル、意外性、申分なし」などと記す。「ファントム・レディ」は厳松堂で春山行夫に売約済みだったものを横取りした。[ウールリッチ=アイリッシュ雑記(昭和28・1953年/昭和28年9月]

[春山行夫:本を浚われた話/昭和29年]

[波多野完治:体験的古本屋論/平成6年]

二月二十四日(日)

□日記□「ロック」に「小栗虫太郎」原稿三枚、速達で送る。午後一時、初音町(小石川二丁目)の源覚寺で営まれた小栗の埋骨式に海野十三らと参列。[探偵小説四十年 *乱歩は「源光寺」と誤記]

二月二十五日(月)

□日記□「宝石」の岩谷満と武田武彦、写真班二人を同伴して来訪、乱歩の写真を撮影。「新人ウールリッチ」原稿五枚、手渡す。[探偵小説四十年]

二月二十七日(水)

□日記□午後三時から新橋の銀八で雄鶏社推理叢書の会合。雄鶏社の武内俊三、木々高太郎、大下宇陀児、海野十三、小島政二郎と出席。クイーン雑誌を閲覧するため放送会館の進駐軍図書館に行くが、日比谷に移転中で果たせず。ディクスン「孔雀殺人事件」を読む。[探偵小説四十年]

二月

《【二月】生活費の枠を月五百円と定めらる。新旧円の交換はじまる。公職追放令公布》

三月一日(金)

《【三月】筑波書林、探偵雑誌「ロック」を創刊。編集長、山崎徹也》

三月二日(土)

□日記□大慈宗一郎と中島親が来訪。ディクスン「ユダの窓」を読む。[探偵小説四十年]

三月三日(日)

「探偵小説漫語」を書く。[初出末尾]

三月五日(火)

□日記□スピカ社の湯沢が来訪、猪熊弦一郎による乱歩選集の表紙絵を持参。「苦楽」の広瀬照太郎の子息が来訪、「ファントム・レディ」の翻訳を連載することに決める。ディクスン「ユダの窓」を読む。[探偵小説四十年]

三月七日(木)

□日記□クレイグ・ライスの記事が「タイム」に掲載されたことを読書新聞で知り、アメリカの探偵小説を紹介する原稿に訂正が必要となって春山行夫を訪ねるが、不在。日比谷の米軍図書館で「タイム」を閲覧。帰途、神田の厳松堂に立ち寄り、ジョセフ・ジュリアンという進駐軍の文官と話す。波多野完治と会う。[探偵小説四十年]

三月八日(金)

□日記□朝、春山行夫宅を訪問、原稿を取り戻し、「タイム」一月二十三日号を借用。午後五時、波多野完治と新橋の第一ホテルにジョセフ・ジュリアンを訪ね、持参の無惨絵を見せて話す。午後八時辞去。[探偵小説四十年]

三月九日(土)

「アメリカ探偵小説の二人の新人」を書く。[初出末尾]

「アメリカの探偵雑誌──クイーン雑誌・ライス雑誌其他」を書く。[初出末尾]

三月十日(日)

□日記□「苦楽」の小柳が来訪、海外作品の翻訳が困難なため、「ファントム・レディ」の連載をやめることにする。翻訳は十五枚で中絶。[探偵小説四十年]

三月十三日(水)

「アメリカの探偵小説」第二回を書く。[初出末尾]

三月十五日(金)

□日記□朝、住友銀行に行き、三月の生活費六百円を引き出す。チャンドラー「大いなる眠り」、ハメット「シン・マン」を読む。[探偵小説四十年]

三月十七日(日)

□日記□クイーン「災厄の街」を読む。[探偵小説四十年]

三月十九日(火)

□日記□渡辺健治が来訪、自筆雑誌「黄金虫」第一号を持参。渡辺の実兄祐一(氷川瓏)の「乳母車」が掲載されていた。[探偵小説四十年]

三月二十一日(木)

□日記□赤坂山王(千代田区永田町)の山の茶屋で新日本芸術聯盟発起人会。探偵作家ではほかに大下宇陀児が出席。ライス「すばらしき犯罪」、ウールリッチ「黒衣の花嫁」「コカイン」を読む。[探偵小説四十年]

三月二十四日(日)

「クイーンの大手品」を書く。[初出末尾]

三月二十五日(月)

「ライス夫人の「すばらしき犯罪」」を書く。[初出末尾]

□雑誌□「宝石」創刊号(第一巻第一号)の奥付発行日。「アメリカ探偵小説の二人の新人」が掲載された。近影と武田武彦による写真説明も掲載。

三月三十日(土)

□日記□第一ホテルにジョセフ・ジュリアンを訪問、日本画の掛軸を贈り、帰国したら探偵小説を送ってくれるよう依頼。午後一時から交詢社で「宝石」主催の座談会。進駐軍のタトル大尉を囲み、大下宇陀児、木々高太郎、水谷準、角田喜久雄、渡辺健治、城昌幸、岩谷満と父親、武田武彦らと出席。チェスタトン「木曜日の男」、ラティマー「モルグの麗人」、アイリッシュ「食後の物語」、コリア「緑の思想」、スタウト「ゴムバンド」を読む。[探偵小説四十年]

三月

《【三月】物価統制令施行。新円生活はじまる》

四月一日(月)

□雑誌□「ロック」四月号(第一巻第二号)の奥付発行日。「小栗虫太郎君」「アメリカの探偵雑誌──クイーン雑誌・ライス雑誌其他」が掲載された。

四月十日(水)

□雑誌□「旬刊ニュース」第一巻第六号の奥付発行日。「アメリカ探偵小説の諸相」が掲載された。

□日記□ジュリアン中佐、日仏会館のオシュルコン、波多野完治と米軍の自動車で松沢病院を訪問。アイリッシュ「暁の死線」、クイーン「神の燈火」を読む。[探偵小説四十年]

四月十五日(月)

□雑誌□「雄鶏通信」四月下旬号(第二巻第六号)の奥付発行日。「最近のアメリカ探偵小説界」第一回が掲載された。

四月十六日(火)

□日記□「旬刊ニュース」にクイーン「神の燈火」抄訳を四回連載することを約す。[探偵小説四十年]

四月十七日(水)

□日記□正午から高円寺の新山水で「ロック」の会。社長の成田義雄、木々高太郎、海野十三、大慈宗一郎、中島親と出席。午後四時まで。渡辺健治が来訪。[探偵小説四十年]

四月二十日(土)

□日記□午後三時から銀座の新太炉で研究者探偵叢書の打ち合わせ。木々高太郎と出席。マーシュ「羊毛の中に死す」を読む。[探偵小説四十年]

四月二十二日(月)

「ライス夫人の「すばらしき犯罪」」の追記を書く。[初出末尾]

□日記□「宝石」の岩谷満と城昌幸が来訪、創刊号の完成が月末まで延びたと知らされる。ディクスン「白い准僧院の殺人」、フーラー「ハーバード大学の殺人」を読む。[探偵小説四十年]

四月二十七日(土)

□日記□延原謙が上海から引き揚げ、来訪。[探偵小説四十年]

四月二十九日(月)

□日記□渡辺健治が京都から帰り、来訪。巌松堂に行く。[探偵小説四十年]

四月

《【四月】雄鶏社は木々高太郎監修「推理小説叢書」全十五巻の内容を発表した。日本作家八人、外国作家七人。しかし、後者はその後飜譯が出来ない事情となり未刊に終った》

《【四月】私の主催で第一回探偵作家土曜会を日本橋川口屋銃砲店の二階広間に開く》

《【四月】預金封鎖強化さる。衆議院議員総選挙。婦人代議士三十九名生まる》

五月一日(水)

「探偵評論家ヘイクラフト」を書く。[初出末尾]

□雑誌□「文化復興」五月号(第二巻第四号)の奥付発行日。「探偵小説漫語」が掲載された。

□雑誌□「ロック」五月号(第一巻第三号)の奥付発行日。「クイーンの大手品」が掲載された。

五月三日(金)

「フダニット随想」を書く。[初出末尾]

五月七日(火)

□日記□山本直一が来訪。コールタールで自宅の屋根を塗る。クイーン「デヴィル・ツー・ペイ」を読む。[探偵小説四十年]

五月九日(木)

□日記□小川一彦(双葉十三郎)が初めて来訪。[探偵小説四十年]

[双葉十三郎:ぼくの特急二十世紀/平成20年]

五月十二日(日)

□日記□双葉十三郎と植草甚一が来訪。[探偵小説四十年]

五月十三日(月)

□新聞□「第一新聞」に「戦時の探偵小説」が掲載された。

五月十四日(火)

□日記□「改造」の西田来訪。局長になっているという佐藤績に改造社から探偵雑誌を出すようことづけた。ライス「間違い殺人事件」を読む。[探偵小説四十年]

五月十八日(土)

□日記□雄鶏社の社員が来訪。「赤毛一族」の原稿を渡し、井上良夫と小栗虫太郎の両未亡人への印税を小切手で受け取る。推理小説叢書のフィルポッツの巻は小栗の死去で新訳ができず、井上の旧訳を小栗名義で出すように斡旋し、印税は両未亡人で折半した。[探偵小説四十年]

五月二十日(月)

□雑誌□「雄鶏通信」五月上・下旬合併号(第二巻第七号)の奥付発行日。「最近のアメリカ探偵小説界」を「アメリカの探偵小説」と改題し、第二回が掲載された。

□日記□土蔵のなかの蔵書を片づけ始めた。家庭菜園の麦畑に案山子を立てた。ライス「激情の審判」、ライリー「デッド・フォア・ダカット」、ハメット「赤い収穫」を読む。[探偵小説四十年]

五月二十五日(土)

「アメリカの探偵小説」第三回を書く。[初出末尾]

□雑誌□「宝石」新緑号(第一巻第二号)の奥付発行日。「ライス夫人の「すばらしき犯罪」が掲載された。

□日記□大映のプロデューサー加賀四郎とシナリオライター高岩肇が来訪。「心理試験」映画化について話す。[探偵小説四十年]

五月二十六日(日)

□日記□甲賀三郎の長女、柴田初子が来訪。ディクスン「プレイグ荘殺人事件」を読む。[探偵小説四十年]

五月二十九日(水)

□日記□大映の加賀、船橋来訪。「心理試験」の映画化を承諾。[探偵小説四十年]

五月三十日(木)

□日記□午後二時から赤坂山王の山の茶屋で新日本芸術聯盟の相談会。発起人は河竹繁俊、伊原宇三郎、大下宇陀児、乱歩、中谷博。ディクスン「弓弦荘殺人事件」を読む。[探偵小説四十年]

五月

《【五月】極東国際軍事裁判東京法廷開かる。大邸宅開放指令出る。米よこせデモ宮城に押しかける。第一次吉田茂内閣成立》

六月四日(火)

「フダニット漫録」を書く。[初出末尾]

六月五日(水)

「ホームズは生きている」を書く。[初出末尾]

六月六日(木)

□日記□角田喜久雄来訪、長篇探偵小説「蜘蛛を飼う男」の原稿を預かる。[探偵小説四十年]

六月七日(金)

「新人翹望」を書く。[初出末尾]

□日記□山岡荘八ら二人、芸術聯盟の件で来訪。角田喜久雄「蜘蛛を飼う男」、グレアム・グリーン「内部の人」、ジョセフ・ダニンガー「あなたは何を考えているか」、ジェームズ・グールド・カゼンズ「難船」を読む。[探偵小説四十年]

六月八日(土)

□日記□海野十三が自由出版の村瀬逞社長ら二人をつれて来訪。「悪魔の紋章」の出版を約す。[探偵小説四十年]

六月九日(日)

□新聞□「名古屋タイムズ」に「論理性を」が掲載された。

六月十日(月)

□雑誌□「旬刊ニュース」第一巻第九号の奥付発行日。クイーン「神の灯火」の抄訳「黒い家」第一回が掲載された。連載は七月まで。

六月十五日(土)

□日記□宝石社二階で開かれた探偵小説を語る会で海外探偵小説について語った。水谷準、角田喜久雄、城昌幸のほか若い世代が十数人参加した。岩谷書店は日本橋の川口屋銃砲店ビルの一階の一部を借りて「宝石」を発行しており、そのビルの二階広間を借りて同好者の集まりを開いた。[探偵小説四十年]

六月十七日(月)

□日記□三木紫郎(九鬼澹)、甲賀三郎全集の話をもって来訪。監修を引き受けた。夜、自由出版の招待会があり、海野十三、大下宇陀児、水谷準、延原謙と出席。[探偵小説四十年]

六月十九日(水)

□日記□吉祥寺の井上英三宅を訪れ、英語本を借りた。甲賀三郎全集の件で柴田初子を呼び、承諾を求める。「モダン日本」の元編集長、須貝が「苦楽」の創刊について記した大仏次郎の手紙を持って来訪。水谷準が来訪、博文館を辞め、作家専業になると告げられる。カー「死の時計」「帽子蒐集狂事件」「夜歩く」を読む。[探偵小説四十年]

六月二十五日(火)
□雑誌□「旬刊ニュース」第一巻第十号の奥付発行日。「黒い家」第二回が掲載された。
□雑誌□「宝石」捕物帳特輯号(第一巻第三号)の奥付発行日。「探偵評論家ヘイクラフト」が掲載された。
[2013年9月22日]
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